心房細動と心房粗動

心房細動と心房粗動とは

心房細動と心房粗動とは、心房の収縮があまりにも速いために心房壁がふるえ、血液を効率よく心室へ送り出せなくなる状態のことです。心房細動と心房粗動は、高齢者に多くみられます。


正常(左)と心房細動(右)の刺激興奮の違い

  • 動悸、胸痛などの症状がみられます。
  • 治療では、薬を投与するほか、電気ショックを実施して正常な心拍リズムを回復させます。手術やアブレーションで治療する場合があります。

心房細動と心房粗動は、間欠的に起こる場合、持続的に起こる場合があります。
心房細動では、心房の調律(リズム)が不規則になるため、心室の調律も不規則になります。
心房粗動では、心房の調律も心室の調律も規則的です。
心房細動と心房粗動のいずれの場合でも、多くの場合心室は速く拍動しすぎて血液を十分に送り出すことができません。そのため心臓のポンプ機能の効率が落ちて血圧が下がり、心不全を起こす場合があります。


心房細動の心電図

原因

かつてはリウマチ性心疾患が多く、最近は基礎疾患を持たないstand alone型また冠動脈疾患で起こります。特に最近では加齢だけで心房細動や心房粗動の起こる可能性が高くなります。

合併症

心房細動や心房粗動では、心房内に残った血液が停滞し、血栓が形成されることがあります。
このような血栓は、は左心室を通り、血流に乗って移動し、脳の動脈に詰まると脳卒中が起こります(心源性脳梗塞)。まれに、脳卒中が心房細動や心房粗動の最初の徴候になることがあります。

注目!!心房細動と脳梗塞

心房細動が持続すると心房内に血液の流れがよどみ、血栓(血液の塊)ができやすくなります。 心房細動で血栓ができる場合には凝固因子が特に重要であることがわかっています。
特に左房でできた血栓が脳にとび脳の主要な血管(脳動脈)が閉塞されると脳梗塞を引き起こしてしまいます。
脳梗塞疾患側からみると脳梗塞の約30%が心房細動によるといわれています(心原性脳梗塞)。 また、心源性脳梗塞の再発率は75%と4人に3人が再発しています。


左心耳の3DCT

血栓ができる場所は左心房の左心耳というところです。行き止まりのほら穴のようになっていて、まずそこからでき始めるのです。(図)
脳梗塞になると非常に死亡リスクが高くなり、死に至るケースも多くなります。未然の予防が必要です。


心源性脳梗塞のイメージ


リウマチ性心疾患で出来た巨大な心内血栓


脳梗塞になった脳の断面


脳梗塞のCT画像矢印のところが脳梗塞

症状と診断

心房細動と心房粗動の症状は、主に心拍数によって異なります。
心室の拍動数が増えても、1分間あたり約120回未満であれば症状は現れません。それ以上に心室の拍動数が速くなると、不快な動悸や胸部不快感が起きるようになります。
心電図検査で確定されます。

心房細動の治療方法

心房細動と心房粗動の治療の目的は、心室の収縮速度を制御して、正常洞調律を回復させること、加えて不整脈を引き起こす病気を治すことです。

1. 薬物療法

a. 抗不整脈薬

原因となっている病気の治療は重要ですが、心房不整脈が必ず軽減するとは限りません。
レートコントロール: 通常、心房細動や心房粗動に対する治療の第1段階は、心室の拍動を遅くして、心臓が血液を送り出す効率を改善することです。レートコントロールといいます。最初に投与する薬は、心室への電気刺激の伝導を遅くさせる作用があるジルチアゼムやベラパミルなどのカルシウム拮抗薬です。プロプラノロールやアテノロールなどのベータ遮断薬を用いる場合もあります。心不全患者には、ジゴキシンを用いる場合もあります。

b. 脳梗塞を予防するための抗凝固療法

血栓予防
心房細動や心房粗動が正常洞調律に戻ると、心臓から血栓が押し流され、脳卒中を起こすリスクがひときわ高くなります。脳卒中を起こす危険性があるため、抗凝固薬を投与します。しかし、特別な理由によって抗凝固薬を使用できない場合もあります。
心房細動や心房粗動が正常洞調律に戻った後でも、多くの患者は抗凝固薬の投与を受け続け、たいていの場合は生涯にわたって服用することになります。患者が気付かないうちに不整脈が再発する可能性があるため、抗凝固薬の投与を続ける必要があります。危険な心源性脳梗塞を予防するためです。

2. 高周波カテーテルアブレーション(心筋焼灼術)

カテーテルを挿入し心房の粗動回路を遮断して、永久的な正常洞調律に回復させることが可能です。現在心房細動の治療としてよく行われているものが高周波カテーテルアブレーションです。
高周波カテーテルアブレーションとは数本のカテーテルを心臓の中に進ませ、心臓の異常な心筋部を見つけ出して高周波通電を行う治療です。発作性心房細動における高周波アブレーションの成功率は約70%です。
接続性心房細動ではさらに低く、心房の直径が50ミリを超えると高率に再発するのでアブレーションは行いません。

3.外科治療(内視鏡下のフルメイズ手術)

外カテーテルアブレーションが効果のない場合や心臓内に他の病気があり手術治療を必要とする場合、心房細動に対して手術をすることがあります。
Maze手術(以下メイズ手術)の原理は、心房細動は “心房筋に複数の電気的な旋回路である部位が存在する“という理論の基に左右心房を4㎝幅以下の“たんざく“となるように迷路状(maze)に心筋を電気的に遮断(切開や凝固などで)することで、旋回路をなくし洞調律を戻す方法です。

アブレーションにくらべ心房細動の元になる不整脈源を根治する方法であり一番治療効果が高い方法です。同時に心源性脳梗塞の原因となる左心耳を切り取りますので心房細動が再発しても抗凝固剤を服用する必要がない場合もあります。

従来われわれは、完全内視鏡下のミニメイズ手術を行ってきました。しかしその効果の検証してみたところカテーテルアブレーションと大差なく外科手術の有効性が示されなかったことで方針を変更いたしました。その原因としてミニメイズに用いる高周波焼灼では完全なアブレーションが行われにくい事と、三尖弁、僧帽弁輪周囲のアブレーションは高周波では不可能という欠点があったのではないかと思います。
より高い根治性を目指して、人工心肺、心停止下の冷凍凝固を用いたフルメイズ法を提唱し今後はこの方法を中心にやっていきたいと思います。

元来メイズ手術は単独心房細動の根治手術として1991年にJ.L.Coxによって報告されました。冷凍凝固の併用により慢性心房細動の85パーセント以上の高い完治率でしたが、カテーテルアブレーションが確立されて以降、単独心房細動の外科治療症例は減少しました。

しかし、カテーテルアブレーション不成功例や再発例に対しては現在カテーテル治療ではなすすべがありません。一方、内視鏡ミニメイズ法は肺静脈隔離術がメインでカテーテルアブレーションとほとんど同じライン取りの高周波アブレーションを行う術式です。左心耳切除を同時に行えるメリットがありますが、心外からの左心耳切除は心源性脳梗塞を完全に予防できるほど十分ではなく、ミニメイズ後、抗凝固療法をやめた後の脳梗塞症例の報告もあります。

アブレーションに用いるエネルギーデバイスの観点から見ると、カテーテルアブレーションも外科領域の報告でも、近年では高周波よりも冷凍凝固を用いる方が完治率は高いこともしめされています。新しい外科用の冷凍凝固デバイスの市販化も後押しして、2019年より我々は完全内視鏡下のフルメイズ法に立ち返る方針としました。冷凍凝固を用いる利点は高周波比べ心房壁が薄くても厚くても貫壁性の電気的隔離が可視できてかつ短時間で十分可能になること。三尖弁や僧帽弁の周りにも使えるので同部を旋回する心房細動が起こらなくなる事です。

また完全な内視鏡下で行うことができるということや、体の右側のみ4穴だけで完遂できると言う利点があります。

脳梗塞

欠点としては人工心肺を使い心停止を用いるために、人工心肺運転にかかわる一定のリスクは避けることはできません。しかし、歴史のある高い完治性を持った治療である事と、弁膜症に合併した心房細動症例には、同時術式として完全内視鏡下のメイズ手術を多数行なってきた経験から、これからは症例を選んで行っていきたいと思っています。

その適応としては
1.カテーテルアブレーションの不成功例
2.脳塞栓症などの塞栓症の既往を持っている場合。
3.薬剤抵抗性やカテーテルアブレーション不適応症例

禁忌としては
人工心肺運転に伴う合併症の可能性が高いと予想される症例、
高度大動脈石灰化や多発脳梗塞等、
脳梗塞の術後発症の可能性の高いと思われる症例など

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